私が仕事の中で、大切にしてきた言葉があります。
「知らない人の顔は描けない」
デザインの話なのに、なぜ「顔」なのか。
どれだけ絵を描く技術があっても、その人の顔を知らなければ似顔絵は描けません。
私は、デザインも同じだと思っています。
デザインする前に、まず「知る」
Webサイトでも、アプリでも、パンフレットでも、仕事としてデザインするなら、いきなり作り始めることはありません。
まず考えるのは、
- 誰が使うのか
- 何に困っているのか
- 何を伝えたいのか
- どうなれば成功なのか
ということです。
知らなければ、色も、写真も、文字の大きさも、情報の順番も判断できません。
だから私は、
「知らない人の顔は描けない」
と考えています。
私は、ずっと違う業界をデザインしてきた
振り返ると、私はさまざまな業界のデザインに関わってきました。
アパレルからWebの世界に入り、Yahoo! JAPAN、その後はEC、求人、アプリ、金融、旅行、配食、終活、介護、葬儀など、本当に幅広い領域に携わってきました。
今もフリーランスとして、異なるサービスのデザインに関わっています。
最初から詳しかったわけではない
もちろん、最初からその業界を知っていたわけではありません。
- だから調べます。
- 話を聞きます。
- サービスや競合を見ます。
そして、
「このサービスは誰のためにあり、何を解決するものなのか」
を理解していきます。
デザインするのは、その後です。
「センスがあるからできる」わけではない
デザインは、よく「センス」という言葉で語られます。
もちろん、経験によって身につく感覚はあります。
でも、仕事ではそれだけでは足りません。
- なぜ、この色なのか。
- なぜ、この位置なのか。
- なぜ、この順番なのか。
それを説明する場面がたくさんあるからです。
「なんとなく、こっちの方がいい」
だけでは、仕事として再現することができません。
チームを持って、考え方が変わった
このことを強く意識するようになったのは、デザイナーをマネジメントするようになってからです。
自分一人なら、自分の感覚で判断することもできます。
でも、誰かのデザインにフィードバックするとき、
「私はこっちが好き」
では、相手は次に活かせません。
「なんとなく」を分解する
たとえば、
「この画面、なんだか読みにくい」
と感じたとします。
そこで終わらず、
- 文字が小さいのか
- 行間が狭いのか
- 余白が足りないのか
- 情報の優先順位が弱いのか
- コントラストに問題があるのか
と分解していきます。
原因が分かれば、改善できます。
そして、その考え方は別のデザインにも使えます。
それが「虹色のタコ」につながった
この連載では、デザインを見るための考え方を、タコの8本の足に例えてきました。
色彩、構成、視覚生理、タイポグラフィ、情報設計、インタラクション、アクセシビリティ、ガイドラインと改善。
これらは、正解を覚えるためのものではありません。
「なんとなく」を言葉にするための視点です。
そして、タコの「頭」がある
8本の足だけでは十分ではありません。
その前に、
「なぜデザインするのか」
を考える必要があります。
- 誰のためなのか。
- 何を解決するのか。
- どうなれば成功なのか。
それを考えるのが、タコの「頭」です。
結局ここでも、最初の話に戻ります。
知らなければ、目的も決められません。
デザインの主役は、自分ではない
私が多く関わってきたWebサービスや企業のデザインでは、自分を表現することが最優先ではありませんでした。
主役はユーザーです。
自分の好みよりも、
- 「分かりやすいか」
- 「迷わず使えるか」
- 「必要な情報にたどり着けるか」
を考えます。
だから私は、特定のテイストだけを持つのではなく、目的に合わせて変化できるデザイナーでありたいと思っています。
それも「虹色のタコ」という名前に込めた意味の一つです。
AI時代のデザインで、より重要になるもの
今はAIを使えば、文章も画像もデザイン案も短時間で作れるようになりました。
これからは、デザイナーだけでなく、企画職や営業職、エンジニア、経営者など、これまでデザインを専門にしてこなかった人でも、AIを使ってさまざまなものを作れるようになっていくと思います。
私は、それ自体はとても良い変化だと感じています。
ただ、作れることと、良いものを判断できることは別です。
AIが10案、20案と提案してくれたとき、
どれを選ぶのか。
何を直すのか。
なぜ、その案が良いのか。
そこには、人間側の判断基準が必要です。
AIに「もっといい感じに」と伝えることもできます。
でも、その「いい感じ」とは誰にとって良いのでしょうか。
- 見た目が整っていることなのか。
- 読みやすいことなのか。
- 迷わず操作できることなのか。
目的によって答えは変わります。
私は、AIによって制作のハードルが下がるほど、
「何を作るか」以上に、「何を良しとするか」が重要になる
と考えています。
だから「デザインハーネス」を作っています
前回の記事では、「デザインハーネス」という考え方について書きました。
これは、「虹色のタコになれ!」で整理してきたデザインの考え方を、AIと一緒に使える形にしようとしているものです。
AIにデザインを作らせるためだけのものではありません。
AIと一緒に、
- 「この画面は分かりやすいか」
- 「情報の優先順位は適切か」
- 「ユーザーは迷わないか」
- 「改善するなら、どこから手をつけるべきか」
を考えるための判断基準です。
デザインに詳しくない人にも使ってほしい
私がデザインハーネスを作りたい理由の一つは、デザイナーだけのものにしたくないからです。
- デザインを依頼する人。
- 企画を考える人。
- 資料やWebページを作る人。
- AIを使って何かを作る人。
そうした人たちが、デザイナーと同じ知識をすべて身につけなくても、
目的と根拠を持ってデザインを考えられる状態
を作れたらと思っています。
実際に使える形で配布したい
この連載は、考え方を知ってもらうために書いています。
でも、読むだけで終わらせたくありません。
そこで、「虹色のタコになれ!」で整理してきた考え方をもとにしたデザインハーネスを、実際にAIで使える形にして配布したいと考えています。
まずは、デザインハーネスの考え方を体験できるものから。
実際にAIとのやり取りの中で使いながら、
「なんとなく」
ではなく、
「なぜそう判断するのか」
を考えられるものにしたいと思っています。
そして将来的には、用途や目的に合わせて、より実践的に使えるデザインハーネスも用意していきたいと考えています。
AI時代の「デザインのものさし」を共有する
AIによって、作ることはますます簡単になります。
だからこそ私は、
判断するための「ものさし」を持つことが、これからのデザインでは重要になる
と思っています。
「虹色のタコになれ!」で書いてきた8本の足と頭は、そのためのものさしです。
そしてデザインハーネスは、そのものさしをAIと一緒に使うための道具です。
まだ試行錯誤の途中ですが、実際に使える形が整った段階で、この連載でも配布について紹介していく予定です。
ぜひ、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
20年以上やってきても、最初にすることは同じ
デザインの仕事に関わって、20年以上になります。
使う道具はずいぶん変わりました。
紙からWebへ。
PhotoshopやIllustratorからFigmaへ。
そして今はAIも使います。
でも、最初にすることはあまり変わりません。
- 相手を知る。
- サービスを知る。
- ユーザーを知る。
- 課題を知る。
- 目的を知る。
そこから、デザインが始まります。
「知らない人の顔は描けない」
この考え方だけは、これからも変わらないと思っています。
「虹色のタコになれ!」は、そのための連載です
この連載では、色彩や構成、情報設計など、少し専門的な話もしてきました。
でも、伝えたいことはシンプルです。
デザインを、センスや好き嫌いだけで考えない。
相手を知る。
目的を考える。
そして、自分の判断に理由を持つ。
そのための視点を整理したものが、「虹色のタコになれ!」です。
デザイナーだけでなく、資料を作る人、Webサイトを担当する人、デザインを依頼する人、そしてAIでものづくりをする人にも、何か一つ役立つ考え方があれば嬉しく思います。
デザインに完成形がないように、「虹色のタコになれ!」もまだ完成ではありません。
そしてこれからは、読むだけではなく、実際に使える「デザインハーネス」という形でも、この考え方を届けていきたいと思っています。
これからも、少しずつ続きを書いていきます。



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