「自分でやったほうが早い」
デザイナーとして経験を積んできた人なら、一度くらいそう思ったことがあるのではないでしょうか。
私自身、ずっとそうでした。
これまで私は、3社ほどでゼロからデザイン組織を立ち上げてきました。
最初の頃の私は、いわば「自分が主役」のマネージャーでした。
難しい案件、大きなプロジェクト、経営に近い仕事は自分が担当する。
メンバーには、比較的進めやすい案件を任せる。
- 自分が担当すれば早い。
- 品質もある程度コントロールできる。
- プロジェクトや経営陣からも評価される。
当時は、それが正しいと思っていました。
でも、ある時気づきました。
それでは、組織になっていないのです。
「自分ができる」は、組織の強さではない
自分に仕事が集まるようになると、当然ですが限界がきます。
- 確認待ち。
- 判断待ち。
- デザインレビュー待ち。
- 難しい案件は全部自分。
結果として、自分自身がボトルネックになります。
私が忙しくなればなるほど、チーム全体の仕事が止まっていく。
個人として評価されていたとしても、組織として見れば、それは決して健全な状態ではありませんでした。
そこで、直近でデザイン組織を立ち上げたとき、考え方を大きく変えました。
自分を主役にするのをやめよう。
そう考えました。
主役を、マネージャーからメンバーへ
新しい組織では、できるだけ私自身が表に立たないようにしました。
- プロジェクトで説明するのもメンバー。
- ミーティングで質問するのもメンバー。
- デザインを提案するのもメンバー。
- プレゼンするのもメンバーです。
私は、そのための裏方に回りました。
ただし、何もしないわけではありません。
むしろ、マネージャーとしてやることは増えました。
会社の中には、デザインだけでは解決できないことがたくさんあります。
- 部署間の調整。
- 優先順位。
- スケジュール。
- 予算。
- 根回し。
時には、組織同士の政治的な問題もあります。
そうした部分を、できるだけ私が引き受けました。
メンバーには、
「社内政治ではなく、デザインで悩んでほしい」
と思っていたからです。
答えを教えるのではなく、考えるためのフィードバックをする
もう一つ、大きく変えたことがあります。
それまでの私は、
- 「ここを直したほうがいい」
- 「こっちのほうがいい」
と、答えを出すことが多かったと思います。
でも、それもやめました。
代わりに、
- 「なぜこのデザインにしたのか」
- 「誰のためのものなのか」
- 「今回、何を改善したいのか」
- 「これが成功したと言えるのは、どんな状態なのか」
といった質問をするようになりました。
制作物だけを見るのではなく、その前にある判断を見る。
デザインレビューも、正解を教える場ではなく、一緒に判断基準を確認する場に変えていきました。
「何をつくるか」より「なぜつくるのか」
チームの仕事の進め方そのものも変えました。
- 「このページを作ってください」
- 「このバナーを作ってください」
という依頼を、そのまま制作に回さない。
制作前に、
- なぜ必要なのか
- 何を改善したいのか
- 誰のためなのか
- 何をもって成功とするのか
を確認する。
そしてデザイナー自身が、
理解する → 質問する → 提案する → 制作する
という流れで案件に関わるようにしました。
これは、私のポートフォリオでも「デザインチームと組織づくり」として整理している考え方です。
依頼されたものを作るチームではなく、
目的を共有し、一緒に考えるチームにする。
それを目指しました。
人を管理するのではなく、仕事を見えるようにする
一方で、主体性だけを求めてもチームは回りません。
「自主的にやってください」
だけでは、マネジメントを放棄しているのと同じです。
そこで、依頼や工数、進捗をできるだけ可視化しました。
各部署からの依頼を一元化し、事業へのインパクトをもとに優先順位を決める。
- 誰が何を担当しているのか。
- どの案件にどれだけ時間がかかっているのか。
- どこに仕事が集中しているのか。
- 現在どの案件が進んでいるのか。
それらをチームと事業部の双方から見える状態にしました。
ここで大切にしていたのは、
人を監視するためではなく、仕事の状態を見えるようにすること。
です。
「この人は仕事が遅い」
ではなく、
「なぜこの案件に時間がかかっているのだろう」
と考える。
個人を管理するのではなく、問題を発見しやすい状態をつくる。
これもマネジメントの役割だと思っています。
メンバーが評価されることが、マネージャーの成果
しばらくすると、変化が出てきました。
私がいなくても、メンバー自身が依頼者に質問するようになりました。
言われたものをそのまま作るのではなく、
「今回の目的は何ですか?」
「それなら、こちらの方法のほうが良いのではないでしょうか」
と提案する。
自分で考え、自分で説明し、自分でプロジェクトを進めるようになりました。
そして、それぞれのメンバーが社内で評価されるようになりました。
デザイン組織は、最初は私一人でしたが、最終的には約10名の組織になりました。
デザイン経験のない新卒社員も、実際の案件を担当できるデザイナーへ成長しました。
その後、人事から新卒社員の研修を任されるようになり、毎年のように新卒社員を半年から1年ほど受け入れるようになりました。
この経験から、私はようやく理解しました。
自分が評価されることではなく、メンバーが評価される状態をつくること。
それも、マネージャーの成果なのだと思います。
若い人に「教えてあげる」という感覚も、少し違う
私は、若い人を一方的に「育ててあげる」という考え方も、あまり好きではありません。
経験ではこちらのほうが上かもしれません。
でも、若い人には若い人の強さがあります。
- 新しいものを吸収する速度。
- 学習に対する抵抗の少なさ。
- 体力。
- 新しいサービスや文化への感覚。
こちらが教えることもあれば、こちらが教えてもらうこともあります。
経験年数が長いというだけで、指示を出し、完成したものを評価するだけになってしまったら、マネージャー自身が成長を止めてしまいます。
マネジメントは上下関係ではなく、
それぞれ違う能力を持った人たちが、力を発揮できる状態をつくること。
私はそう考えています。
そして、AI時代になる
ここからが、今回一番書きたかったことです。
生成AIによって、デザイナーの仕事はこれから大きく変わります。
- アイデアを出す。
- 文章を書く。
- 情報を整理する。
- ワイヤーフレームを考える。
- 複数のデザイン案をつくる。
これまで時間がかかっていた作業を、AIが支援できる場面は確実に増えていきます。
すると、
「自分のほうが制作が速いから、自分がやる」
というマネージャーの価値は、以前より小さくなるかもしれません。
AIを使えば、若いデザイナーでも短時間で多くの案を出せます。
知らないことを調べることもできます。
壁打ちもできます。
文章も整理できます。
だからこそ、これからマネージャーに求められるのは、
「正解を持っている人」
ではないのだと思います。
AIが答えを出せる時代ほど、「判断基準」が必要になる
AIは、たくさんの案を出してくれます。
しかし、
- 「どの案を選ぶのか」
- 「そもそも何を解決するのか」
- 「誰のためのデザインなのか」
- 「事業として何を優先するのか」
- 「なぜこのデザインなのか」
まで、自動的に決めてくれるわけではありません。
むしろ、選択肢が増えるほど、人間側の判断が重要になります。
だから、AI時代のデザイナーマネジメントでは、
答えを教えることより、判断できる人を増やすこと。
が大切になるのではないでしょうか。
AIに仕事を奪われない人を育てるのではなく
「AIに仕事を奪われないデザイナーを育てる」
という言い方をすることがあります。
私は、少し違うと思っています。
AIと競争する必要はありません。
AIを使いながら、
- 目的を理解する。
- 質問する。
- 考える。
- 選ぶ。
- 説明する。
- 提案する。
- 改善する。
そうしたことができるデザイナーを増やせばいい。
そして、そのための環境をつくることが、マネージャーの役割なのだと思います。
AIの使い方を細かく管理することよりも、
AIを使って何を実現するのかを考えられるチームをつくる。
そのほうが、ずっと重要です。
「自分がいなくても回る」は、寂しいことではない
以前の私は、
自分がいなければ進まない。
自分が一番難しい仕事をしている。
そんな状態に、どこか価値を感じていたのかもしれません。
でも今は逆です。
- 自分がいなくても、メンバーが考え、判断し、仕事を進められる。
- 困ったときだけ相談に来る。
- そして、私が思いつかなかったような提案をしてくる。
そのほうが、はるかに強い組織です。
マネージャーが主役である必要はありません。
主役はメンバーでいい。
マネージャーは、その人たちが思い切り活躍できる舞台をつくればいい。
虹色のタコになれ
この連載では何度も、
「自分が好きだから」
ではなく、
「目的と根拠で判断する」
という話を書いてきました。
それは、マネジメントでも同じなのだと思います。
自分の成功体験を押しつけない。
自分と同じデザイナーをつくらない。
人によって得意なことも違います。
経験も違います。
考え方も違います。
そして、AIによって働き方そのものも変わっていきます。
だからマネージャー自身も、形を変えなければならない。
自分が一番上手につくる必要はありません。
メンバーが考え、判断し、活躍できる状態をつくる。
AI時代だからこそ、それがデザイナーマネジメントの大切な仕事になっていくのではないでしょうか。


コメント