これまで「虹色のタコになれ!」では、デザインを感覚やセンスだけで考えるのではなく、目的と根拠から考えるための方法を紹介してきました。
色彩、構成、視覚生理、タイポグラフィ、情報設計、インタラクション、アクセシビリティ、そしてガイドラインと改善。
私はこれらを、タコの8本の足にたとえています。
でも、ここまで書いてきて、ひとつ思うことがあります。
この考え方は、人間だけが使うものなのだろうか。
いま、文章も画像もWebサイトも、AIを使えば驚くほど短い時間で作れるようになりました。
では、これからデザインの知識は必要なくなるのでしょうか。
私は、むしろ逆だと思っています。
AIで「作ること」が簡単になればなるほど、何を基準に判断するのかが、これまで以上に重要になるからです。
AIは作れる。でも、何を基準に作るのか
たとえばAIに、
「高齢者向けのWebサイトを作ってください」
とお願いしたとします。
すると、かなりそれらしいデザインを提案してくれるでしょう。
文字を大きくしたり、ボタンを目立たせたり、優しそうな色を使ったりするかもしれません。
でも、本当に大切なのは、その先です。
- なぜ、その文字サイズなのか。
- なぜ、その色なのか。
- どの情報を最初に見せるべきなのか。
- そのボタンは本当に見つけやすいのか。
- 初めて訪れた人でも、迷わず目的を達成できるのか。
つまり、
「作れること」と「適切に判断できること」は、別の問題です。
これは人間にもAIにも同じことが言えます。
そこで考えた「デザインハーネス」
私は最近、この考え方をAIと組み合わせられないかと考えています。
そこで使っている言葉が、
「デザインハーネス」
です。
ここでいうデザインハーネスとは、私が考えている、
AIにデザインの判断基準を持たせるための仕組み
のことです。
「このデザインを作ってください」と指示するだけではありません。
- 何を目的としているのか。
- 誰が使うのか。
- 何を優先するのか。
- どんな観点から確認するのか。
- 問題があった場合、何を根拠に改善するのか。
そうした考え方そのものを、AIに渡すイメージです。
プロンプトとは少し違う
AIを使うとき、「プロンプト」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。
たとえば、
- 「30代女性向けのバナーを作ってください」
- 「このWebページを改善してください」
といった指示です。
これは、「今回何をしてほしいのか」を伝えるものです。
一方、私が考えているデザインハーネスは、
「それを、どのように考えてほしいのか」
まで決めておくものです。
たとえばWebページを改善するときも、
- まず目的を確認する。
- 情報の優先順位を見る。
- 視線の流れを見る。
- 文字の読みやすさを見る。
- 操作が予測できるかを見る。
- アクセシビリティに問題がないかを見る。
- そして、なぜ問題なのかを説明してから改善案を出す。
こうした判断の流れをあらかじめ持たせておけば、AIの回答も「なんとなく良さそう」から一歩進みます。
そこで「虹色のタコ」が使える
ここで、これまでの「虹色のタコ」の考え方がつながります。
タコの頭にあるのは、
「なぜデザインするのか」という目的。
そして8本の足には、それぞれ異なる判断基準があります。
- 色彩
- 構成
- 視覚生理
- タイポグラフィ
- 情報設計
- インタラクション
- アクセシビリティ
- ガイドライン/改善
AIにデザインを考えてもらうときも、この8本の足から確認していけばいい。
色だけを見るのではなく、情報設計も見る。
見た目だけではなく、操作も見る。
完成した瞬間だけではなく、その後の運用や改善まで見る。
つまり、
「虹色のタコになれ!」で整理してきた考え方そのものが、AIの判断基準になる。
私はそこに、大きな可能性を感じています。
デザイナーのためだけのものではない
そして、デザインハーネスを考えるうえで、もうひとつ大切にしたいことがあります。
それは、
デザイナーだけが使うものにしないこと。
ということです。
- たとえば、営業担当者がチラシを作る。
- マーケティング担当者がLPを作る。
- PMが新しい画面を確認する。
- 経営者が制作会社から提出されたデザインを見る。
これまでなら、
- 「なんとなく違う」
- 「もう少し目立たせたい」
- 「こっちのほうが好き」
という話になりがちだった場面でも、AIと判断基準を共有できれば、
- 「この情報が最初に必要なのではないか」
- 「この色は別の意味でも使われているので、ユーザーが迷うのではないか」
- 「このボタンは他の要素より重要なのに、視覚的な優先順位が低いのではないか」
といった会話ができるようになります。
デザインに詳しくない人でも、感覚ではなく目的と根拠から考えられる。
これは、私がこの連載でずっと伝えたかったことでもあります。
AIがデザイナーになる、という話ではない
ここは誤解されやすいところかもしれません。
私は、AIにデザインを全部任せればいいとは考えていません。
AIはたくさんの案を出せます。
情報を整理できます。
問題を見つける手助けもできます。
しかし、
- 誰に何を届けたいのか。
- 何を大切にしたいのか。
- その企業やサービスらしさとは何なのか。
- そして、最後にどの案を選ぶのか。
そこには、人間の判断が必要です。
だから私が考えるデザインハーネスでは、
AIが判断するのではなく、AIと一緒に考える。
という関係を大切にしたいと思っています。
「センスがないからできない」を減らしたい
この連載の最初から、私は「デザインはセンスだけで決まるものではない」と書いてきました。
もちろん、経験や表現力は大切です。
でも、その前に知っておくことがあります。
- 誰に伝えるのか。
- 何を伝えるのか。
- どの順番なら理解しやすいのか。
- どの色なら識別しやすいのか。
- どんな文字なら読みやすいのか。
ひとつずつ考えていけば、デザインは少しずつ説明できるものになります。
そしてAIは、その「考える作業」を助けることができます。
だから私は、
デザインの知識 × AI
には、とても大きな可能性があると思っています。
AIによってデザインの知識が不要になるのではありません。
むしろ、これまでデザイナーの頭の中にあった判断基準を、より多くの人が使えるようになる。
そんな未来が来るのではないでしょうか。
虹色のタコに、もうひとつ役割を
最初に「虹色のタコになれ!」という言葉を考えたとき、AIのことまで考えていたわけではありません。
どんな業界やサービスにも柔軟に対応しながら、8つの視点を持ってデザインを考える。
その姿をタコにたとえただけでした。
でも、この連載を書き続けていくうちに、少し見え方が変わってきました。
虹色のタコは、
デザイナー自身が身につける考え方であると同時に、AIに渡すことのできる判断基準にもなる。
のかもしれません。
タコの頭には目的がある。
8本の足には、それぞれの知識がある。
AIは、それを使って高速に考える。
そして最後に判断するのは、人間です。
私はそんな仕組みを、これから少しずつ形にしていきたいと考えています。
まだ実験中の部分もたくさんあります。
でも、目指していることはシンプルです。
デザインを、限られた人だけの「センス」にしないこと。
そして、
誰でも目的と根拠からデザインを考えられるようにすること。
これまで10回にわたって書いてきた「虹色のタコになれ!」は、もしかするとそのための土台だったのかもしれません。
AIの時代だからこそ、考えるための「頭」と「8本の足」が必要になる。
私は、そう考えています。


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